1931年、ザイフェンの隣村、チェコのブランドフ(brandov)でヴァルター・ヴェルナーは生まれました。(父親はドイツ・ザクセンの出身、母親はボヘミアの出身) 誕生から25日目にドイツ側に移動しドイツ国籍を取得。1938年、ザイフェンに隣接しているドイチュカタリネンベルグ(Deutschkatharinenberg)に引っ越し、そこで学校に通いました。

玩具を作りはじめるきっかけとなったのは、ヴァルターの父親がまだ戦地にいた1944年12月24日、クリスマスのことです。物のない時代でプレゼントなどあまり多くなく、プレゼントを置く台の上がさみしかったので、家にあった木を背負う人形が一緒に置かれました。これがザイフェンの著名な民芸家、カール・ミューラー(Karl Mueller 1879-1958) の作品であったことをヴァルター少年は後で知ることになりますが、そのクリスマス以来、普段は飾り棚にしまわれていたこの人形への愛着が深まり、ヴァルターは自分でもこんな人形を作る仕事をしてみたいと思うようになったのです。そんな彼の気持ちを知った彼の祖母は、すぐにザイフェンにあった玩具専門学校に行き、当時の校長にヴァルターの入学を願い出ます。締め切り間際ぎりぎりのところで、ヴァルターは入学を許可されますが、入学の4週間後、終戦を迎えると、玩具専門学校は閉鎖されてしまいました。玩具や人形製作者にとっては厳しい時代でした。ヴァルターは家計の足しにするため農場の仕事を手伝いました。

1945年 8月1日に戦争から父親が傷ついて帰ってきます。 ヴェルナーの一族から出征して無事に帰ってきた男性はヴァルターの父親ひとりだけでした。 ヴェルナー家は代々ザイフェンの出身でした。ヴァルターと両親はザイフェンの本家に戻りますが、チェコに住んでいた母方の祖父母や多くの親族が帰国してきたため家は手狭になってしまいました。しかし、命があることをありがたいと思いながら、誰もが将来にむかって生きようとしていたこの時期に、子ども時代は終わったとヴァルターは言っています。

その年の秋には学校が再開し、ヴァルターも復学し、1948年に卒業します。 その間、学業にはげみながらも時間があれば農場の手伝いを続けました。馬が好きだったので、彼は、馬に触れられる農場の仕事に魅力を感じ、農業にも力をいれました。子どものころから馬は彼の生活の身近にあり、色々な馬を見ながら育ちました。森で働く馬、荷車を引く馬、結婚式で馬車の先頭を走る馬。ヴァルターの馬に対する深い愛情は、彼の多くの作品のモチーフに馬が登場していることにも表れています。 終戦後、生活が少し落ち着きをとりもどしてきた頃に、ヴァルターはミニチュア人形作りを再開。一方では室内の仕事だけでは息がつまると、大工の仕事も覚え始めます。そして暇さえあれば、乗馬を楽しむという日々が続きました。もともと彼の祖父も曾祖父も、美しい馬の玩具や木馬、馬具、乗馬学校用の馬の模型などを製作するのが仕事でした。ヴァルターの馬好きは当然の成り行きだったのかもしれません。

やがてミニチュア人形作りがヴァルターの生業になり、1957年に自身の工房 WALTER WERNER FIGUREN を創設します。 特に16世紀から19世紀の歴史的シーンを題材にしたミニチュアなど、優れた作品を作るようになります。 史実に基づいたミニチュアの製作過程で調べたザイフェンの歴史、14〜16世紀に栄えた錫採掘の作業の各場面や村のさまざまな産業や作業を、目で見て学べるジオラマ(立体模型)で再現する事に情熱をそそぎました。

2000年にはヴァルターの仕事と功績が認められ、国から『Das Bundesverdienstkreuz/ドイツ連邦共和国功労十字勲章』を受章しました。常に夫を支え、彼の仕事を理解し、母としても、妻としても、申し分ない伴侶、ブルンヒルデ(Brunhilde)夫人への感謝と愛情を、ヴァルターは機会あるごとに述べていました。彼女の支えがあったからこそ、自分はやりたいこと、ここまで成し遂げることができたと、妻への感謝と賛辞を自著のなかでも述懐しています。 ヴァルターは、その作品群を軸にまとめた書籍『Seiffen in acht Jahrhunderten(ザイフェンの800年)』を2007年に上梓。この本は、東ドイツの歴史を語るすぐれた著書としてザイフェンの人達だけでなく、多くの読者に称賛されました。そしてその翌年、2008年11月にヴァルターは静かにその77才の生涯を閉じました。


参考文献: ・Walter Werner und Eberhard Waechtler, Gedrechselte Geschichte;Bergleute und Fuersten, Verlag Klaus Gumnior,2005




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1. 書籍 『Gedrechselte Geschichte Bergleute und Fuersten』 © Verlag Klaus Gumnior 2005
2. カール・ミューラー氏の薪を背負う人形
3. ヴァルター氏がマイスター試験で製作した作品
4. ヴァルター氏の曾祖父の木馬工房
5. 木馬工房のミニチュア
6. 工房でのヴァルター氏
7. ヴァルター氏と奥さんのブルンヒルデ夫人 
8. ドイツ連邦共和国功労十字勲章を持つヴァルター氏

画像1.2.3.4.  『Gedrechselte Geschichte; Bergleute und Fuersten』2005年Verlag Klaus Gumnior社刊より


 

 








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